2009年秋~脳挫傷においての算数と数学~ [日記]

交通事故による後遺症『高次脳機能障害』は、実に様々な症状が現れます。
それも十人十色で、どの症状が出るか、またどの程度重たい状態となるか、症状が出ない事には誰にも予測がつきません。

・記憶力が衰え、少し前の出来事(食べ終えたばかりの食事の内容など)も思い出せない
・昔の記憶は残っているが、直近の記憶(例えば直近1~2年とか)が欠落してしまう
・怒りっぽくなる(酷い場合は暴力も)
・またはその逆で、受傷前よりも性格が大人しくなる(酷い場合には一見して鬱病にも見える)
・損傷した脳の場所や度合いによる、身体全体の様々な能力の低下
……

これらはあくまでおっくんのケースで挙げたもので、他にもたくさんの症状があるのだそうです。

暴力的なくらい性格が変わってしまう人もいるそうですが、おっくんの場合はむしろ少し大人しくなった程度で、『気性が荒くなった』とか『人格が変わった』というような状況には今のところ至っていません。
それもいずれ症状が現れるのか、現れないのか……まだまだ未知な部分がたくさんあります。
高次脳機能障害の家族を抱えてしまった家族の誰もが不安や悩む部分なのではと思っています。


元々優しい性格だったところは今も変わらず、例えば『お母さんが心臓発作が起きたから明日手術する事になったんだよ』と言うと心配そうな顔でうつむいたり、ちょっと意地悪に『おっくんが事故に遭ったりしたから心労が溜まってこんな事になっちゃったんだよ、分かってる?』などと言うと、『…分かってる』と呂律が回らないながらも一生懸命に答えて申し訳なさそうな表情を浮かべます。

事故に遭ってから意識的に本人の嫌がる事なども敢えて言うようにしています。
理由は、おっくんに"人間らしい感情"を持っていて欲しいから。自分と同じような患者さんしかいない病院の中で終日過ごしていると、自分自身にも周りにも興味を持たずに過ごせてしまう。それでも許されてしまうような刺激のない環境に日々置かれていると、そのうち犯してしまった罪悪感も分からず、辛い事(今だと例えばリハビリとか)の末に喜び(リハビリしたから旅行に行けた、とか)がある事にも気づかないような感覚を持ち合わせてしまう事が怖かったからです。

また、事故による後遺症で、私たち家族にも分からない何かが欠落してしまっているのなら、そのリスクを少しでも改善させたいと切に願うからです。

今の病院は、基本的におっくんよりも遥かに重症な患者さんが多く、一見する限りでは「一生これ以上回復しないのではなかろうか」と思ってしまう人も正直なところ結構いらっしゃいます。

以前、私の知人がおっくんを見舞いに病院を訪れた帰りに「ここに入院している人たちの中で、何の反応もなく家族の問いかけにすら微動だにしない人を目の当たりにすると、世の中に神様はいないんだって思ってしまって辛すぎる」と言った人もいました。

確かにそうかも知れないね・・・・・・。 でも、「辛すぎる」と一言で逃げられないのが家族なんだから、と改めて気づかされたりしました。

 

--------------

今年の春頃から病院に持ち込んだオセロをおっくんにやらせると、最初の頃はまるでダメでしたが、やり続けて行くうちに病院のスタッフもたまに負けてしまうくらいの腕前になっていました。

一方で、病院から与えられた算数のドリルには、まるでやる気を見せず、小学校の簡単な算数ですらこなせる能力がないかに見られていました。

でも、私から見るとそれは「できない」からやらないのではなく、「やりたくない」からやらないように映ったのです。何故かと聞かれても答えようがないのですが・・・。おっくんは大学こそ経済学部へ進学したものの、数学が得意で理系へ進むか迷ったくらいでしたし、脱サラしてからは柔道整復師を目指すべく日々勉強に明け暮れていました。

直近の記憶こそ欠落してはいるものの、高校生の頃にやった数学は覚えているのではないか?と自然に考えたからかも知れません。

もし今もおっくんが高校生の数学が解ける能力を有していたとしたら、”2+7=9”などの算数を解く気持ちが湧かないに違いない、そう思ったからです。

そこで、周囲からは無謀と言われつつも数学のドリルを病院へ持って行きました。

結果は、予想に反してまるでダメ。ほとんど全く解けませんでした。

でも、諦めずにやり方を変えて、数学の数式から答えを導き出すまでのいくつかの数式を事前に書いてやり、穴埋めさせるようにしてみたのです。

そうしたら、物凄く真剣な目つきでドリルを見つめて、左手を使って鉛筆で穴埋め箇所に該当する数字を書いたのです。

答えは、どれも正解でした。

ちなみに、この穴埋め箇所の数字を導き出す為には、最初に提示された数式の意味を理解していなければ到底答えは出せません。

つまり、おっくんは高校レベルの数学を解く能力近くまで脳が回復して来ていると考える事ができます。もちろんそれ以外の事はまだ不十分な状態ではありますが。

高次脳機能障害は確かに受傷者にとってのインパクトが大きいものではありますが、さりとて周りが諦めたらそこで見えないまだ息のある芽を枯らしてしまうような気がするのです。

 

だから絶対に諦めない!

おっくんは大切な家族であり、家族はかけがえのないものですから。

 


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